【 医院・クリニック開業物件の不動産契約交渉ポイント 】
◆ 賃貸借契約の必須基礎知識 ◆ 【共益費(管理費)】 ・・・ 賃室及び共用部分の維持、管理の費用。 【敷 金(保証金)】 ・・・ 貸借関係から生じる賃借人の債務の担保。 【礼 金】 ・・・ 種々の性格がありますが、通常は賃借人(オーナー)へのお礼。 【償 却】 ・・・ 種々の意味がありますが、通常は賃貸借契約終了の精算金的意味が強い。 【建設協力金】 ・・・ 建築予定のビルを借りる時に生じる、一種の建築費借入金である。 |
≪ S先生 (43歳、男、消化器科) の場合 ≫
物件内容 平成7年建築の3階建ビルの1階、40坪。駅より徒歩2分。 賃貸条件 【賃 料】 550,000円 (坪単価13,750円。別途消費税) 【共益費】 80,000円 (坪単価2,000円。別途消費税) 【敷 金】 賃料の10ヶ月 【更新料】 新賃料の1ヶ月 (別途消費税) 【償 却】 解約時敷金の20% 【契約期間】 3年 |
S先生は、井の頭線浜田山駅の駅前で上記条件のテナント(貸し店舗)を見つけました。
内科、消化器科の診療所を開院するために物件を探していたのです。
S先生は、このテナントを次の条件で借りることが出来ました。
賃貸条件 【賃 料】 400,000円 (別途消費税) 【共益費】 40,000円 (別途消費税) 【敷 金】 賃料の5ヶ月 【更新料】 新賃料の1ヶ月 (別途消費税) 【償 却】 解約時敷金の10% |
≪ Y先生 (39歳、男、皮膚科) の場合 ≫
物件内容 平成3年建築の7階建ビルの3階部分、20坪。 駅より徒歩1分。 賃貸条件 【賃 料】 300,000円 (坪単価15,000円。消費税別) 【管理費】 60,000円 (坪単価3,000円。消費税別) 【保証金】 賃料の10ヶ月 【礼 金】 賃料の2ヶ月 【償 却】 解約時保証金の20% 【契約期間】 3年 |
Y先生は、総武線の錦糸町駅前で開院するために物件を探していて、
上記条件のテナントが見つかりました。
Y先生は、このテナントを次の条件で借りることが出来ました。
賃貸条件 【賃 料】 280,000円 (別途消費税) 【共益費】 60,000円 (別途消費税) 【保証金】 賃料の10ヶ月 【礼 金】 賃料の1ヶ月 【償 却】 解約時敷金の10% 当初の条件より変更されたのは 賃料 と 礼金 で、 |
S先生は 369万円 も得をし、Y先生は 30万円 しか得をしなかった。
この 金額の差 は、いったいどこから出たのでしょう?
これは、簡単に言えば時の運だったのです(?)。
それでは詳しく説明していきます。
契約条件の交渉に入るまでの過程は、次のような手順で進めます。
[手順 1] その地域における契約条件の相場を調べる。
[手順 2] 契約条件の相場を基に、こちら側の希望条件を決める。
[手順 3] 希望条件を賃貸人(オーナー)に掲示し、反応を見る。
希望の条件がそのまま通ることは難しく、まず希望通りにはならないと考えてよいでしょう。
そこで、契約条件の交渉に入るわけです。
Y先生の時もS先生の時も、交渉までの過程は同じでした。 違いは、Y先生は平成9年9月の契約、
S先生は平成13年の10月の契約で、契約時期が4年ほど違います。その他の条件は大体同じです。
Y先生もS先生も、近隣の貸し店舗の賃貸契約相場を調べました。S先生の場所は、商業地域ですが
駅前の小さい商店街だったので、それほど高額な相場は出ていませんでした。
一方、Y先生の物件は錦糸町駅前の商店街の中にあるので、条件の相場は全般に高く厳しいものでした。
二人の先生は、それぞれ賃料を坪単価10,000円、管理費を坪単価1,000円、保証金を半額で希望しましたが、
やはり受け入れられませんでした。そこで、本格的に交渉に入りました。
契約条件の交渉にも手順があります。
[交渉 1] 賃料の交渉をする。
賃料は毎月発生するものなので、できるだけ安くするのです。
[交渉 2] 管理費(共益費)の交渉をする。
これも毎月発生するものなので粘り強く交渉します。
[交渉 3] 保証金(敷金)の交渉をする。
保証金(敷金)については大幅に減額を求めて良いでしょう。
なぜなら、診療所に対しては保証金をそれほど当てにしなくても契約は維持できると言えるからです。
簡単にいえば、医師に対しては信用もあり収入も安定しているので、それほど担保は必要ないと
主張するのです。
[交渉 4] 礼金、償却、その他の不利な条件を交渉する。
それほど重要な条件ではないことが多いので、ほどほどの主張をします。
契約条件の交渉は、利害の調整ですから、自分の立場、利益の主張だけでは駄目です。相手(賃貸人)の立場も考える必要があります。 これは、賢く交渉するポイントでもあります。
S先生の交渉内容は、賃料相場が 坪12,000円~9,000円だったので、坪10,000円を強く主張しました。これはすんなり通りました。 駅前商店街といっても、人通りがそれほど多くはなく、ビルもグレードが低かったからです。
共益費については、これでも安いと言ってきましたが、ビル管理の状況を見るとそれほど手を掛けていなかったので、坪1,000円を主張しました。これも通りました。 敷金は、「医者が借りるのだから」という決め文句で半分にしてくれました。
他の条件は、オーナーさんの条件を呑みました。確かにまだ値切る部分はあったのですが、引くところも交渉には必要なので、それで手を打ちました。
一方、Y先生の交渉は難航し、結果としてはオーナーさんの条件をほとんど呑んだ結果となりました。しかし、少なくとも1条件ぐらいはメリットを取りたいので、賃料を 坪1,000円負けてくれるように頼みました。これはどうにか呑んでくれました。それでも癪なので、さらに礼金を1ヶ月減額してくれるように頼みました。これもどうにか呑んでくれましたが、あとは駄目でした。 このオーナーさんは、かなり渋かったです。 しかし、余り強気に出ないでオーナーさんの顔を立てました。この地域の顔役であり、人脈が広かったのでそれを利用してメリットを受けようと考えたのです。この目論見は当たりました。 幾度となく患者さんを紹介してくれたのです。今でも変わらず紹介してくれるそうです。
条件交渉はケースバイケースでその交渉内容が違ってきます。 一律に「安く安く」と交渉することは得策ではありません。 オーナーさんとは永い付き合いになるのですから、余り自分の利益ばかり主張しない方が結果として、メリットを受けることがあります。 Y先生は、そのいい例と言えるでしょう。 交渉で自分側のメリットを多く取っても、かならずオーナーさんのメリットも考慮してください。 それが長い目で見て、メリットを受け、
気分良く診療所を続けられるのです。 この点を忘れないで下さい。
不動産の売買についても色々な交渉のテクニックがあります。 それについては、また後日ご説明します。
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